生まれた時の性別に違和感があるトランスジェンダーの約半数が、病院を受診する時に嫌な思いをしたことがあることが、当事者有志らのウェブアンケートでわかった。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

トランスジェンダーの医療受診について調査した自身もFtM/トランス男性で看護師の浅沼智也さん

「本名をフルネームで呼ばれる」「興味本位の扱いを受ける」などが多かったが、中には、医師から「うちでは診ることができない」と診療を拒否される例もあった。

調査した「カラフル@はーと」代表で自身もFtM/トランス男性(女性として生まれ、性自認は男性)の看護師、浅沼智也さんは、こう訴える。

「医療を受けることに抵抗を感じて足が遠のいてしまっている当事者がいることを医療従事者は認識し、早急に対処してほしい。命や健康状態に関わることですから」

性別違和がある人380人の回答を分析

調査は浅沼さんら有志によるもので、性別違和を持つ人を対象に、2018年7月〜2019年1月ウェブ上で行われた。

424人が回答し、そのうち380人の有効回答を分析した。

「出生時の性別」が女性である回答者が282人、男性が141人、それ以外の回答が 7 人。自認する性別は女性107人、男性152人、それ以外の回答が121人だった。

「医療機関の受診をためらったことがある」が全体の約42%

浅沼智也さん提供

まず、「風邪やけが、体調不良などの際に病院などの医療機関の受診をためらったことがあったか」という問いには、全体で41.8%がためらったことがあると回答した。

MtF/トランス女性(男性として生まれ、性自認は女性)では33.9%が、FtM/トランス男性では57.3がためらったことがあると回答した。Xジェンダー(性自認が女性/男性ではない人、中性、無性、両性など多様)では2030%がためらったことがあると回答をした。

受診をためらった理由では、「名前」や「性別」と見た目のギャップの問題が多い。

浅沼智也さん提供

受診をためらった理由で多いのは、名前や性別欄と見た目のギャップの問題だ。

自由回答の中では、保険証の性別欄や本名と、見た目とのギャップについて説明をするわずらわしさや、受付や診察室への呼び出しの際に本名で呼ばれるのが不快だという声が多かった。

医師に身体を診せることが苦痛だったり、FtM/トランス男性だと胸の膨らみを押さえつける「ナベシャツ」を着ていることが聴診器を当てる時にバレることを恐れたりする人もいた。

浅沼さんは、こうした診療上の不快さは、医療者の適切な対応で和らげることができると言う。

「流れ作業で指示するのではなく、『あなたの症状を診るためにはこういう検査をすることが必要なので、肺の音を聴かせて下さい』と一つ一つ丁寧に説明をすれば、患者は不安が軽減した状態で身体をみせられる可能性があります。トランスジェンダーに限りませんが、患者の不安に配慮した声かけが必要です」

自由回答の中には「GID(性同一性障害)であることで『うちでは診られない』とたらい回しにされた経験がある」ことや、「以前、カミングアウトしても理解されるどころか、頭ごなしに批判された」という経験から、受診をためらう気持ちになったと書いてくる人もいた。

「私の友人でも『早く元の体に戻しなさい』と医療者に説教された人がいます。そういう不快な経験がトラウマになって、次も同じことが起きるかもしれないと受診をためらってしまい、体調を悪化させてしまう人もいます」

受診の際に嫌な体験をしたことがあるのは全体で45%、FtM/トランス男性では56%も嫌な体験をしていた。

浅沼智也さん提供

実際に体験した嫌なことで多いのは、やはり受付や診察室への呼び出しで本名(フルネーム)を呼ばれたこと。驚くことに診察を拒否された人も複数いた。

浅沼智也さん提供

「保険証の氏名や性別と見た目が違っているため、違う人ではないかと疑われる」「名前を呼ばれた時の周りの視線」など、保険証に書かれた名前や性別で本人確認する際に、不快な思いをする人は多い。

「取り違えなどを防ぐためにも本人確認が重要なのはわかるのですが、受付で説明した後にも、呼び出しや診察室でもなんども本人確認されることが多いのですね。医療者が内部で情報を共有してフルネームで呼ばないようにするなどの配慮を求めたいところです」と浅沼さんは言う。

「精神科の受診先を探している時に、性同一性障害の診断がついていることを伝えると初診も断られた」「医師に『特別な治療をしている人だから他で診てもらってください』と言われた」と受診拒否にあった経験を書く人もいた。

受診の時に当事者を悩ませるオープンな場で見た目と違う「本名」を呼ばれる問題。では、なぜ名前を変更していないのだろう。MtF/トランス女性では名前を変更したいができていない人が多く、FtM/トランス男性ではすでに変更した人が多い。

浅沼智也さん提供

そして、名前をなかなか変えられない事情もある。もっとも大きいのは家族との関係だ。

浅沼智也さん提供

圧倒的に多いのは、自分の名前をつけてくれた親への思いだ。

  • 「父が存命の内は、変更しないのが親孝行だと思っていた」
  • 「親の気持ちを考えるから」
  • 「親がつけた思いを大事にしたいし、また、親との関係や親に対する気持ちの折り合いもついていないため」
  • 「親から授かった名前であり失うことへの躊躇いがあり、また変更する手続きなどの手間を考えると一歩が出ない」
  • 「既婚子持ちで、配偶者が子供が成人するまで待つべきだと言うので」
  • 家族に反対されている。


さらに、治療が進んでいないことを理由にあげる人も多い。

裁判所で性別を変更するには、性同一性障害であると診断され、生殖腺(卵巣、精巣)を摘出する性別適合手術を受けていることなどが要件となる。名前の変更は別の手続きとなるが、治療をしてから氏名変更をと考えている人も多い。

  • 「まだ、性同一性障害の診断や治療、手術を受けていないから」
  • 「まだSRS(性別適合手術)をしていないことと、自分が違和感なく女性として社会に溶け込む自信がない」
  • 「全く身体の治療をしていない状態で男性名に改名した場合、周囲や世間からのハラスメントに遭わないかなど、不安なことが沢山あるため」


そして、治療していない・中止した理由でもっとも大きいのはお金の問題だ。

浅沼智也さん提供

性別適合手術は2018年4月から公的医療保険がきくようになったが、性同一性障害と診断を受け、ホルモン治療を受けていないことが要件となる。

保険のきかないホルモン治療を受けていれば、性別適合手術も自由診療となり、依然として経済的負担は大きい。さらに、MtF/トランス女性では脱毛する人が多く、治療費はかさむ。

「ホルモン治療を継続して行うだけでも経済的な負担が大きく、1回約1000円~5000円かかります。2週間~1か月に1回投与することが多く、平日に有休を取って受診する人や、ホルモン療法をしてくれるクリニックや病院がないため遠方まで通院しなければいけない人もいます。長く付き合っていかなければいけないことなので早くホルモン療法が保険適用になることを願います」

逆にトランスジェンダーが受診・入院した時に嬉しかった経験はあるのだろうか? 通称名を使え、呼び出しの時に苗字だけで呼ぶなどの配慮をしてくれたことだ。

浅沼智也さん提供

「岡山大学病院では当事者が手続きをすれば、診察券の名前や性別の変更を可能にしています。僕は最近、婦人科に受診をしたのですが、苗字だけで呼んでくれたり、他者と待合室が一緒にならないよう配慮してくれたりしたことが嬉しかったです」

そして、医療機関・医療従事者に知ってほしいことを自由記載で聞くと、190もの回答があった。求めているのは、理解と個別的な配慮だ。

浅沼智也さん提供

この結果を受けて、浅沼さんたちは新たな研究調査と医療従事者向けの啓発イベントを企画中だ。

「様々な事情で、治療したくてもできない人がいるし、戸籍変更をしたくてもできない人もいます。トランスジェンダーの人々が不安や嫌悪感なく必要な時に医療機関を受診できるよう体制を整えてもらうことや各医療機関で適切な知識を得る為の研修をしてもらいたい」

「トランスジェンダーが直面する問題は、時として命や身体に深刻な影響を及ぼすことにもなるので早急に取り組んでほしいのです」

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