「過去の財産だけでは食いつなげない」

パナソニックのヨーロッパ市場を統括するパナソニックマーケティングヨーロッパ社長、松永陽介氏の言葉だ。日本国内ではもはや唯一の「総合家電メーカー」として2018年に100周年を迎え存在感を増しているが、海外市場では大きく事情が異なる。

これからヨーロッパ市場でどう戦うのか、話を聞いた。

パナソニックマーケティングヨーロッパ社長、松永陽介氏(Natsuko Abe/BuzzFeed)

アジアとヨーロッパではパナソニックのポジションは全く逆

そもそも、ヨーロッパとアジアでは、パナソニックのポジションは大きく異なる。アジア市場では、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電が8割で、残り2割がテレビやオーディオなどのAV商品が占めるが、ヨーロッパでは全く逆だ。

パナソニックヨーロッパの売り上げの約7割をテレビやオーディオ、ビデオなどが占める(Natsuko Abe/BuzzFeed)

背景にはミーレやボッシュといった地場メーカーの圧倒的強さがある。欧州において洗濯機や電子レンジ、洗濯機のような白物家電は建物に組み込んで使う「ビルトイン」構造が多い。設置には工事が必要で、家電メーカーと工事業者、住宅業者との間には強い関係性が構築されている。アジアの家電メーカーにとって、参入しずらい市場なのだ。

「AV商品を届けることで社会貢献してきた」

1962年にドイツ・ハンブルクに支社を設立した(Natsuko Abe/BuzzFeed)

しかし、パナソニックの欧州での歴史は古く、1962年にはドイツ北部にあるハンブルクに支社を設立した。「AV商品を届けることで社会貢献してきた」と松永氏が語る通り、欧州のテレビ市場では一定のシェアを獲得してきた。

ドイツで開催された家電展示会「IFA2019」に出店されていた最新のテレビ。透明ディスプレイを使用している(Natsuko Abe/BuzzFeed)

現状、欧州のテレビ市場はパナソニックやソニー、シャープなど日系メーカーのほか、LGやサムスンなどの韓国メーカー、さらにオランダのフィリップスなど様々なメーカーが乱立しているが、パナソニックは高付加価値製品ときめ細かいサービスで勝負してきた。

一例がバイインググループでの強さだ。バイインググループとは、日本でいう地域の家電店のようなもの。1店舗で扱うメーカーは多くとも3つほどだが、その中にパナソニックが残ってきた。

Natsuko Abe/BuzzFeed

欧州では、AmazonなどのECサイトで家電製品を買う人がまだ少なく、バイインググループは市場全体で約4割を占める重要な販売チャネルだ。その一方で、現状のままではいけないという強い危機感も持つ。

「今、我々は過去の財産で商売している。この財産で次の20〜30年いけるのか、と自問自答しているが、やはり新しい強みを作っていかなければならない」

次の20年で強化するべきは、住宅用の省エネ機器

欧州で次のメイン商材として据えるのが、ヒートポンプ式温水暖房機「Air to Water」と、住宅用換気システム、水素燃料電池の3つだ。2025年までに足もとの売り上げの5倍を目指す。

特にAir to Waterには大きな期待を寄せる。大気熱を冷媒に集め、その熱で室内を暖めるという機器で、1台で全館暖房が可能。CO2の排出量を大幅に抑えながら、外気温-25℃までの寒冷地に据付が可能だ。

欧州で今後の主力製品と位置付けるヒートポンプ式温水暖房機「Air to Water」(Natsuko Abe/BuzzFeed)

「欧州は全館、24時間暖房が基本。真冬でも家の中でもTシャツ、―10℃でも家の中が暖かいというのが普通だ。今は天然ガスが中心だが、この先も安定的な供給が約束されているわけではない。Air to Waterで欧州に事業貢献していきたいという思いがある」

フランスでは自治体による補助金制度を用いることで、初期費用ゼロで、Air to Waterを導入できるという。世界的に見ても欧州は環境先進国が多く、省エネ製品への補助金制度も豊富で、政府の理解も得やすいという背景がある。

「日本メーカーの強み」が活かせる市場

ライバルも少なくないが、「日本メーカーの強み」を活かせる市場でもあるという。

「中国メーカーが水素や燃料電池をいきなり作れるかといえば、やはり作れない。パナソニックは2020年のオリンピック選手村となる『HARUMI FLAG』において、本格的な水素インフラを備えた国内初の街づくりを経験する。これらのノウハウを蓄積して、欧州でしっかりとブランドを作っていきたい」

今後は営業体制の強化や、住宅設備に強い欧州の企業との協業を積極的に進めて行く。その主軸となるのが、チェコにあるパナソニック・ピルゼン工場に新設された「Air to Water」の生産ラインだ。

チェコにあるパナソニック・ピルゼン工場に新設された「Air to Water」の生産ライン(パナソニック提供)

同工場はテレビやAV機器の生産工場だが、一部ラインを改装し、「Air to Water」の生産に充てた。

「欧州でモノづくりをするというのは、我々の悲願の一つ」と語るのは、パナソニックヨーロッパで空調事業を統括する有薗氏だ。

ここで生産されたものは全て欧州で展開。工場には、設置事業者向けのトレーニングセンターも併設されるなど、様々な体制を整えている最中だという。

パナソニックAPエアコンヨーロッパ 有薗正樹会長(Natsuko Abe/BuzzFeed)

「欧州では環境規制と冷媒規制が我々の事業の後押ししてくれている。特に『Air to Water』は欧州起点で、成長の柱としていきたい」

欧州でのイメージを「テレビのパナソニック」から「住宅のパナソニック」に、変えることができるのか。まずは、これから5年が勝負になりそうだ。

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